文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ソール・A・クリプキ『名指しと必然性』

ソール・A・クリプキ 八木沢敬・野家啓一

『名指しと必然性』 産業図書

 

ソール・A・クリプキ(1940-)の『名指しと必然性』を読了しました。ラッセルによる確定記述に基づく固有名の解釈に真っ向から反対して、指示の因果説を提唱した20世紀の言語哲学における必読文献のひとつです。

 

本書の副題は「様相の形而上学と心身問題」なのですが、指示の理論と密接に結びついた前者(様相)はもちろん、本書の後半では足早な仕方ではありますが「心身問題」についても語られます。同一性とは必然的な関係であるという洞察から、心脳同一説の否定へと至るクリプキの議論はとても切れ味が鋭いのですが、あまりに簡潔すぎてちょっとどうなのだろうという気がします。

 

【満足度】★★★☆☆

上枝美典『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』

上枝美典

『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』 勁草書房

 

上枝美典の『現代認識論入門 ゲティア問題から徳認識論まで』を読了しました。エドマンド・ゲティアが1963年に発表した極めて短い論文を端緒として、主に英米系の分析哲学の流れの中で「知識」の定義や性格を巡って闘わされた議論を追っていく、認識論の入門書です。非常にコンパクトに解りやすくまとめられています。最初に目にしたときは一体何なのかよく解らなかった「徳認識論」なるものの由来についても、よく理解することができました。

 

【満足度】★★★☆☆

森見登美彦『熱帯』

森見登美彦

『熱帯』 文藝春秋

 

森見登美彦の『熱帯』を読了しました。『千夜一夜物語』を導きの糸とした物語で、「熱帯」という幻の本を巡るファンタジーが展開されます。沈黙読書会などディテールの面白さと物語を発散させていく手筋は相変わらず素晴らしく、惹き込まれてしまいます。ただ、物語を収束させていく作業はあまり得意ではないというのが、森見氏の小説に関する私の見立てというか感想で、本書も後半部分の展開には物足りなさを感じてしまうのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

Nelson Goodman "Fact, Fiction, and Forecast"

Nelson Goodman

"Fact, Fiction, and Forecast" Harvard University Press

 

Nelson Goodman(1906-1988)の"Fact, Fiction, and Forecast"を読了しました。『事実・虚構・予言』として勁草書房から翻訳が出ており、現在も流通している書籍ではあるのですが、英語のペーパーバックの方が安価に手に入るため、そうすることにしました。

 

本書は4つの章から構成されていますが、もともとは別々の論文として発表されたもののようです。つとに有名なのは「帰納の新しい謎」と題された第三章で導入された「グルー(grue)」という述語で、その述語はグッドマンの定義によれば、「時点t以前に調査されて緑色であるもの、そしてそうではない[時点t以前に調査されていない]場合に青色であるもの(all things examined before t just in case they are green but to other things just in case they are blue)」に適用されます(翻訳しにくい英文です)。すべてのエメラルドはグリーンであるという仮説と、すべてのエメラルドはグルーであるという仮説は同じ証拠によって支持されることになるというのが、グッドマンのいう帰納の新しい謎です。

 

この謎は投射可能な(projectible)述語とそうでないものとを、私たちはいかにして区別することができるのか、というかたちで更に展開されていくことになります。本書(第四版)の冒頭にはヒラリー・パトナムによる序言が収録されているのですが、そこで描かれた見取り図が参考になります。

 

【満足度】★★★★☆

トマス・ピンチョン『ヴァインランド』

トマス・ピンチョン 佐藤良明訳

『ヴァインランド』 新潮社

 

トマス・ピンチョン(1937-)の『ヴァインランド』を読了しました。大作『重力の虹』から16年(17年?)の後、1990年に発表された本書は、1960年代に青春時代を過ごしたヒッピーたちの若き日の回想物語であり、1980年代の「現代」へと接続するポップカルチャーの渦潮が描かれるポストモダン小説です。

 

本書におけるゾイド・ホイーラーのようなどうしようもない主人公を描いて妙にホロリとさせるところは相変わらずのピンチョン節なのですが、ゾイドの娘であるプレーリーやゾイドの元妻であるフレネシ、そしてフレネシの友人である「DL」などを中心にして物語りはめくるめく展開を見せていきます。このあたりの渦というか、奔流というか、そういう流れを楽しむことができないとピンチョン作品の読書はかなり辛いのですが、ありがたいことに本書は楽しく読むことができました。

 

【満足度】★★★★☆

J・L・ボルヘス『七つの夜』

J・L・ボルヘス 野谷文昭

『七つの夜』 岩波文庫

 

J・L・ボルヘス(1899-1986)の『七つの夜』を読了しました。本書には、ボルヘスブエノスアイレスにあるコリセオ劇場で七夜にわたって行った七つの講演が収められています。「神曲」、「悪夢」、「千一夜物語」、「仏教」、「詩について」、「カバラ」、そして「盲目について」というのがそれぞれの講演テーマです。自分のホームグランドで闊達に語るボルヘスの姿が目に浮かぶようでした。ダンテの『神曲』を読みたい気持ちになります。

 

【満足度】★★★☆☆

アゴタ・クリストフ『どちらでもいい』

アゴタ・クリストフ 堀茂樹

『どちらでもいい』 ハヤカワ文庫

 

アゴタ・クリストフ(1935-2011)の『どちらでもいい』を読了しました。ハンガリー生まれで、スイスに移住してフランス語で小説を執筆したクリストフが『悪童日記』でデビューしたのは1986年のこと。本書の原典は2005年に出版されたとのことですが、その中身は訳者あとがきの言葉を引けば「計二十五の短編小説、もしくはショート・ショートである。むしろエッセーに近いテクストも混ざっている」という代物です。

 

短い独白小説である「斧」や、現代日本のサラリーマンの姿を思わせるかのような「製品の売れ行き」などが印象に残りました。

 

【満足度】★★★☆☆

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